関係者インタビュー

やまぼうしの会 代表 大塚ひとみ

和田地区ってどんなまち…。

和田生まれ、和田育ちです。高浜町には4つの地区があり、その中でも、和田地区は、和田地区委員会を 中心に、「まち」がまとまっています。どのようにまとまりがよいのか、どうしてまとまりがよいのか、と聞かれるとうまく説 明できないけれど、例えば、和田地区からの要望を地区の委員会に届けて役場に陳情するなど、地区のために 地区住民が一致団結して何かをしようとする「まとまり」があるんです。 高浜町には、昔ピークの時期に100万人以上の観光客が来ていました。私の家も、民宿をしていました。昔は和田地区のほとんどの家が民宿か、お土産屋を営んでいました。しかし、今は観光客が20万人ほどです。和田地区のメインとなる通りに商店街がありましたが、今はほとんどのお店がシャッターを閉めています。若狭和田観光協会に登録している観光業を営んでいる会員は以前に比べてかなり減っています。 昭和50年頃には約200軒あった民宿も約40軒に減少しました。高浜町内では、和田地区が夏期 観光の収益の約7割を占め、観光業をリードしています。和田地区の人口は少し減って、今は2,600人くらいです。観光客の集客が低迷していますが、和田地区には昔ながらの路地や道が残っています。昔ながらの和田地区の風景を大切にして、観光客に見ていただき、和田地区の住民自身が昔ながらの良さを見直したい。そんな思いを持った和田地区の住民が総動員して開催しているイベントがあります。「和田de路地 祭り」です。毎年開催しており、第7回目の今年は9月20日(日)、21日(月)に行います。「和田 de 路地祭」には様々な地域から来てくださっています。BS放送にも取り上げられ、長野の小布 施や滋賀県の竜王町から、2年続けてギャラリーに出展してくださる方々もおられます。今まで他地域と は「観光」のつながりでしたが、今は「文化」のつながりもできてきました。9年前から福井大学の学生とコミュニケーションをとっています。学生が高浜町をまちづくりの研究対象として、和田地域の魅力を発見してくれました。私たちが常日頃、当たり前に見ていた景色や和田のまちに ついて学生たちは、「和田地区は景色が素晴らしく、人が温かい」と言ってくれました。和田地区では多くの住民が民宿やお土産屋を営業していたので、観光客への対応、例えば、民宿でお茶を出す、布団をしく、朝ご飯を持っていくなど小さいころから手伝っています。初めて和田を訪れた人へのおもてなし、心遣いが自然に育まれているのかもしれません。他者を自然に、家族のように受け入れることができるんです。そういった気質というか文化というか、まち全体で人をお迎えする温かさがあると、学生たちは話します。住民は 無意識でしているので、そう言われて初めて実感できるようになりました。

ブルーフラッグ認証に向けて

和田地区で一番誇れるのは、やっぱり「海」です。小さいお子様連れのご家族がゆっくり楽しめる海としては、和田の海は最高です。和田地区では、「人足」と呼ばれる浜掃除を、年に数回実施しています。これは和田地区だけの取組 です。たいてい家族の中で誰かが参加します。掃除は、夏の時期やお祭りの前に行います。また浜から砂 が流れてくるので、住民が砂防ネットを立てたり、外したりしています。住民の庭のような海なんです。 最初何ができるか分からないまま、ブルーフラッグ推進部会に入れていただきました。部会に参加するま で、ブルーフラッグの動きについて知りませんでした。まずは、ブルーフラッグ取得のための課題や、やまぼうしの会として何ができるか、を書き出す作業をしました。ブルーフラッグ認証取得に反対する住民はいないと思うけれど、ブルーフラッグを本当に取れるのかと疑問に思っている住民はいると思います。来年ブルーフラッグを取得した場合、今までのように浜で犬を遊ばせることができなくなります。ある住民は浜で犬の散歩をしているので、取得したらできなくなるのではないかと不安がっていました。その課題について、部会では、犬が散歩できる場所とできない場所に分けることや、犬を散歩できる時間帯を変えてもらうこと、など話をしました。これまで、浜に犬を散歩に連れて行っていた人たちの時間帯を調べて、その人たちの不満が出ないような納得していただける仕組みが必要です。まだ和田地区の住民の多くがブルーフラッグをあまり理解していません、ブルーフラッグについて、良いとも悪いとも聞きません。和田地区の住民の間では、何か始まったみたい、という感じです。ブルーフラッグ取得 に反対の人の声も全く聞きません。リフォームの作業ややまぼうしの会の活動の際に、「ブルーフラッグを認証している海は、世界で4,000ヶ所あるが、まだアジアにはない。高浜はアジアで最初にブルーフラッグを 取ろうとしている」と話しています。すべての住民が、観光客が昔のように増えてほしいとは思っていないと感じます。観光客が多いほうが良 いとは思いますが、もっとも観光客が多い時代には、民宿をしている家では、自分たちが寝る場所さえあり ませんでした。自分の部屋も貸して、観光客も畳1畳に1人寝ていた状況でした。おじいちゃん、おばあち ゃんはお風呂場で寝ることさえありました。その時のように観光客数が増えてほしいとは思っていません。また、新しく設備投資をしてまで、民宿をしたいとは思いません。けれど、観光客には和田地区の良い景色 を見て、知っていただきたいとは思っています。ブルーフラッグ取得までの期間が短いので認証の時期を延期しても良いのでは、と思っていましたが、高浜町として日本初のブルーフラッグ認証をとることに意義がある、スケジュールを変えることはできないと説明 を受けました。それならば、和田地区が平成28年春にブルーフラッグを取得できるよう応援することにしました。若狭高浜ライフセービングクラブには60人ほどメンバーがおられますが、そのメンバーのうち、1家族と3名の方が移住してこられました。その方々は、「和田地区の海が好きで、移住して来た」と言われるのを聞いて、私はよりブルーフラッグを取りたいと思いが強くなりました。若狭高浜ライフセービングクラブには、地元ではない方が多く在籍していることを知り、和田の海には、「人を惹きつける力があること」に驚きました。若狭高浜ライフセービングクラブは、和田の海で7年間活動をされており、その活動の努力にブルーフラッグ 取得で応えられれば良い、と考えるようになったんです。和田の海を好きになり、和田に移住してくれる人もいる。私は多くのことを教えてもらっています。移住された人たちは、全国の数多くの海を見て、それでも和田の海が良いと言ってくれているんです。和田の海が 良いと言ってくれることで、和田の海に自信を持つことができるんです。移住された人たちの声は、地元の人を元気にします。 また、和田にあるカフェ「ファミリア」の若い経営者は、京都での仕事を辞められ、和田の海が見えるロケ ーションで1年中誰が来ても対応できるお店を作りたい、と戻ってこられました。若者が和田地区に帰って 来られるような環境をつくれるとよいです。高浜町から他地域に出た若者が、地元に帰って来ることができ れば、人口減少の解消にもなります。「和田にはブルーフラッグ取得している海がある」と子どもたちがもっと 自慢できる海になれば良いと思うんです。 高浜町には原発があるため、風評被害で観光客が減ったこともありました。また子どもを海に入れたくな いと、海のことを十分に知らずに言う人もいました。しかし、和田の海の水質は問題がないし、海の管理が できています。ブルーフラッグを取得してきれいな海を全国に知らせたい。一番誇れることは、生活排水が 流れていないことです。生活排水を海に流していない点で、和田の海は「安心」だと確信できます。高浜町役場まちづくり課の担当者は、ブルーフラッグの取得によって、高浜の海のブランド力があがる、平成32年には東京オリンピックがあるため、外国人観光客が高浜に来るかもしれない、と期待しています。 平成30年には、福井国体が開催予定で、高浜町ではセーリングとトライアスロンが行われます。どちらの種目も和田地区で開催されます。和田地区がブルーフラッグを取得したのち、高浜町の他の浜でブルーフラッグが取れるかというと、取得で きるまでに少し時間がかかるのではないかと思っています。和田地区の浜は住民全員で浜掃除ができていますが、他の浜では観光協会の会員数が少ないのか、浜掃除が和田地区ほど進んでいません。和田浜 がブルーフラッグを取得することで、他の浜は海の PR 方法や、他の海のアクティビティをしに来る観光客の 増加を考えるきっかけになるかもしれません。内浦地区の難波江の海には、サーファー客が多く、台風が来ている時でさえ、サーフィンをしています。海を利用する人との接点をいくつもつくることができれば、年中宿泊客が増えるかもしれません。冬場のサーファーは多く、サーフィンの大会などもあります。ブルーフラッグは 夏場しか掲げませんが、ブルーフラッグ取得した浜として観光客に PR できます。先日のブルーフラッグ推進部会では、地域の人にブルーフラッグを理解してもらえるようキャッチコピーをよりわかりやすくして看板を作成しました。看板の背景は夕日の写真です。短いキャッチコピーに変え、「100 年後もキレイな海を子どもたちへ」としました。100年後私はいませんが、これから生まれてくる子どもたちのために和田の海のブランド力を残したいです。このキャッチコピーをつくることで、和田の海への思いを改めて 認識することができました。和田小学校には現在112人の児童がいます。2年に1回開催している「砂浜運動会」が今年開催さ れました。「砂浜運動会」の挨拶で、和田小学校に関わる地域のボランティアが1年間で延べ1,200人いると聞きました。児童1人につき10人の地域ボランティアがおられたということです。私は和田小学校で朝10分の読み聞かせボランティアをしています。地域の人が昔遊びを教えたり、総合学習の時間に田植 え、稲刈り、餅つきをして、乾かした藁でしめ縄を作ることもしています。和田小学校の学習には、一貫して地域の人が関わっている。高浜町全体で地域と学校の連携がどこまでできているかわかりませんが、和田地区はできています。それが、和田の自慢です。「和田 de 路地祭」では、小学校 6年生がここ 3 年間の独自の企画で参加しています。昨年はサンドアートと絵ハガキで出店し、販売しました。その経験を活かして、修学旅行先の大阪市京橋で高浜の特産品を販売したと聞いています。イベントに関わった小学6年生は、中学に進級したらボランティアで「和田 de 路地祭」に参加しています。中学校は和田小学校出身者だけではないので、他の地域の子どもと、「和田de路地祭」に来てくれます。どんどんボランティアの輪が広がっています。参加した子どもが、高校生、大学生となって、若い世代が自分たちも和田地区で何かしたいと思ってくれたら嬉しいです。

やまぼうしの会の活動とは…。

やまぼうしの会は、2008年にスタートして、今年7年目です。メンバーのほとんどが女性で、40~80代の50名の会員がいます。若狭和田駅が2008年にリニューアルされました。当初は花の手入れも行き届いていたのですが、だんだん手入れされなくなりました。若狭高浜観光協会で花の手入れを続けることは難しいとのこと。和田駅 がこのままではさみしいと、自分たちの手で出来るときにできるだけ、無理せず息の長い活動をしようと、や まぼうしの会を発足しました。 自分たちでガレージセールを開き、不用品の販売などをして活動資金を得ることにしました。家の横にあ る駐車場で、みんなで手作りのもの、古着、たこ焼きなどを販売しています。 最初ガレージセールは活動資金のために始めましたが、地域の人が年齢に関わらず、元気になれることをしていきたいと思うようになりました。古着物のリフォームを始めました。年配の方が時間のあるときに着物をほどき、洗濯し、アイロンがけをしてくださいます。月1回「ワイワイリフォーム」という集まりを行い、やまぼうしの会のメンバーと地域住民が一緒になって活動をしています。リフォームした洋服を着て、ファッションショーをしています。ファッションショーを開催した当初は、なかなかモデルを引き受けてもらえなかったのですが、少しずつ増えてきました。今年の「和田 de路地祭」で5回目を迎えます。 やまぼうしの会には、押し花の先生、種まきや野菜作りが上手な方、裁縫が得意な方など自分の得意 分野で活動しています。また、以前民宿の女将をされていた方も多く、調理師免許を持っていますから、料理が上手です。「きまぐれ庵」というお食事処ではやまぼうしの会のメンバーが主になって月1回料理を 出しています。 福井大学工学部建築建設工学科の学生が、古民家のリフォームやファッションショーを担当してくれて、夏以外の時期に民宿を有効活用しようと、会議室の貸し出しや、喫茶店をしたいなどと言ってくれていま す。大学生やいろいろな人の強みを持ち寄ると大きなことができます。空き民宿を活用したギャラリーを作ろう と、1年目は高浜に住んでおられる画家に依頼して、5人のアーティストによる浜でオブジェ作りや、駐車場で大きな布に野染め、クラフトの民宿ギャラリーを開催しました。2年目は、地域の皆さんでパッチワーク 展示や、遠州流生花のギャラリー、絵画展などを行いました。

和田地区への思い

この先、和田地区の街並みはあまり変わらずに、このままであって欲しいと思っています。いろんな方にブ ルーフラッグを PRして、まちの環境維持をしたい。今後、高浜は高齢者率が30%になっていくと思うが、若者が気軽に年配の方に声を掛けてくれるような和田であってほしい。高浜町は箱庭のような地域であり、足を伸ばせば、青葉山で森林浴ができ、ブルーフラッグを取得できるような海もあります。心を癒したい人 に来てもらえる場所になったらいい。高浜で仕事をしたい人、田んぼをしたい人、海に関わることがしたい人 …老若男女の多くの人に来てもらいたい。また、高浜町の自然環境をまるごと、子どもたちが勉強できる場所にしたい。高浜町のこれからをそんなふうに考えています。

【インタビュー協力】環境省中部環境パートナーシップオフィス(EPO中部)